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『ハタ・ヨーガ・プラディーピカー』にはどんなポーズが登場する?

ヨガの歴史を調べていると、何度も名前を目にする文献があります。

Haṭhapradīpikā(ハタ・ヨーガ・プラディーピカー)です。

現在のヨガでもよく知られているHaṭhayogaの重要文献ですが、実際にはどんなポーズが書かれているのでしょうか。

現代のヨガクラスのように、立位、バランス、逆転などが何十種類も並んでいるのでしょうか。

それとも、座って瞑想するための姿勢だけなのでしょうか。

現在の学術版とYoga Studiesの研究を確認すると、そのどちらとも少し違う姿が見えてきます。

『Haṭhapradīpikā』とは?

Haṭhapradīpikāは、Svātmārāmaによって15世紀初頭頃にまとめられたと考えられているHaṭhayogaの重要文献です。

現在、Oxford大学とMarburg大学を中心とするLight on Haṭha Projectによって、200点以上の写本を用いた新しいcritical editionが公開されています。

研究プロジェクトが確認した古い写本の一つには1496年の日付があります。

もちろん、これは「1496年にHaṭhayogaが生まれた」という意味ではありません。

それ以前に存在した複数のヨガ実践や文献を取り込みながらまとめられた資料として研究されています。

登場するアーサナは15種類

Haṭhapradīpikāで具体的に説明されるāsanaは15種類です。

今回確認した資料では、次の名称が挙げられています。

  1. Svastikāsana
  2. Gomukhāsana
  3. Vīrāsana
  4. Kūrmāsana
  5. Kukkuṭāsana
  6. Uttānakūrmaka
  7. Dhanurāsana
  8. Matsyendrāsana
  9. Paścimottānāsana
  10. Mayūrāsana
  11. Śavāsana
  12. Siddhāsana
  13. Padmāsana
  14. Siṃhāsana
  15. Bhadrāsana

名前を見るだけでも、現代ヨガを知っている人には見覚えのあるものがいくつかあるでしょう。

「英雄」「亀」「鶏」「弓」「孔雀」「亡骸」「蓮」「獅子」など、現在のヨガポーズ名にもつながる語が含まれています。

ただし、ここで一つ注意が必要です。

15世紀の文献に同じ名前があることと、現在行われている同名ポーズが完全に同じであることは別です。

YogaTownでは、この二つを分けて考えます。

15ポーズのうち8つは「座る姿勢」ではない

Haṭhapradīpikāが興味深い理由の一つは、āsanaが座位だけではなくなっていることです。

近年のYoga Studies研究では、この15のāsanaのうち8つがnon-seated、つまり座位ではない姿勢として整理されています。

これは、ヨガポーズの歴史を考えるうえで重要です。

古典ヨガの文献では、āsanaは呼吸法や瞑想を安定して行うための座位としての性格が強く見られます。

しかし、中世のHaṭhayoga文献では、身体をより多様な形に配置する実践が記録されるようになっていきます。

Haṭhapradīpikāは、その変化を確認できる重要な資料の一つです。

「84のアーサナ」と15のアーサナはどういう関係?

ヨガについて調べていると、「84のアーサナ」という話を聞くことがあります。

Haṭhapradīpikāにも、Śivaが84のāsanaを教えたという記述があります。

では、この文献に84種類のポーズが載っているのでしょうか。

そうではありません。

本文で具体的に説明されるのは15種類です。

つまり、

  • 84という伝承上の数
  • 文献が実際に説明している15のāsana

は分けて考える必要があります。

さらに本文では、この84の中から4つのāsanaを特に取り上げます。

さらに選ばれる4つのアーサナ

その4つは、

  • Siddhāsana
  • Padmāsana
  • Siṃhāsana
  • Bhadrāsana

です。

そして、その中でもSiddhāsanaがとくに高く評価されています。

ここから見えてくるのは、単純な「15ポーズ一覧」ではありません。

Haṭhapradīpikāでは、

84という伝承 → 15を具体的に説明 → 4つを特に選ぶ → Siddhāsanaをさらに重視する

という階層があります。

つまり、15種類すべてを同じ比重で練習する現代的な「15ポーズメニュー」として書かれているわけではありません。

現代にも同じ名前のポーズがある

15の名称を見ていると、現在のヨガでもよく知られている名前があります。

たとえばŚavāsanaです。

YogaTownにも「亡骸のポーズ」として登録されています。

また、Paścimottānāsanaと関係する現代の座位前屈、Matsyendrāsanaと関係する魚の王のポーズ系の名称など、現代のポーズと比較したくなる例はいくつもあります。

ただしYogaTownでは、

「同じ名前がある」

だけで、

「同じポーズが15世紀から現在までそのまま伝わった」

とは判断しません。

昔のポーズと現代ポーズを比べるには何を見る?

YogaTownでは、古典文献のポーズと現代ポーズを比較するとき、少なくとも次の4つを分けて考えます。

  • 名前が一致するか
  • 身体の形が一致するか
  • 実践する目的が一致するか
  • 歴史的な伝承を示す証拠があるか

たとえば名前が同じでも、身体の配置が変化している可能性があります。

反対に、身体の形が似ていても、別の名前で伝わっている可能性があります。

さらに、形と名前の両方が似ていたとしても、その間をつなぐ資料がなければ、直接的な伝承関係までは確認できません。

Śavāsanaを比べてみると

比較しやすい例の一つがŚavāsanaです。

Haṭhapradīpikāでは、亡骸のように仰向けに横たわる姿勢として説明されています。

また、他のāsanaによる疲れを休めるものとしての説明もあります。

この身体の形は、現在一般にŚavāsanaと呼ばれている姿勢とかなり似ています。

ただし、ここでも注意が必要です。

現代のヨガクラスでは、Śavāsanaをクラスの最後に行うことがよくあります。

しかし、その運用方法まで15世紀から同じだったことを、この記述だけから確認することはできません。

「姿勢が似ている」と「使われ方まで同じ」を分ける必要があります。

15から、100を超えるアーサナへ

Haṭhapradīpikāのあと、ヨガ文献に記録されるāsanaの数はさらに増えていきます。

17〜18世紀には、84以上、あるいは100を超えるāsana名や説明を含む文献が確認されています。

18世紀のHaṭhābhyāsapaddhatiには112のāsanaが記録されています。

そこには静止姿勢だけでなく、反復する動き、連続的な実践、ロープなどを使うものまで含まれます。

この変化を並べると、

古典ヨガの比較的限られた身体姿勢 → Haṭhapradīpikāの15āsana → 中世後期・近世の多数のāsana

という流れが見えてきます。

ただし、これは「15世紀に新しいポーズ文化が突然誕生した」という意味ではありません。

今回確認した文献から見える変化として捉える必要があります。

『Haṭhapradīpikā』から見えるのは「途中のヨガ」

現代から過去を見ると、ヨガの歴史を二つに分けてしまいがちです。

  • 昔のヨガ=座って瞑想するもの
  • 現代ヨガ=たくさんのポーズをするもの

しかしHaṭhapradīpikāを見ると、その間にあった世界が見えてきます。

座るための姿勢だけではなく、身体を多様な形にするāsanaがすでにあります。

一方で、現在のスタジオヨガのように数十種類のポーズを中心に構成された体系でもありません。

現代ヨガへ向かう途中の一つの歴史的な姿を、15のāsanaから見ることができる。

これが今回Haṭhapradīpikāを調べて最も面白かった点です。

今回分かったこと

  • Haṭhapradīpikāでは15のāsanaが具体的に説明される
  • そのうち8つは座位ではない
  • 「84のāsana」という伝承にも言及するが、84種類すべてを説明しているわけではない
  • 15の中でも4つが特に取り上げられ、Siddhāsanaがさらに重視される
  • 現代にも同じ・似た名前のポーズがあるが、名称の一致だけでは直接的な伝承関係を証明できない
  • Haṭhapradīpikāは、āsanaが多様化していく歴史を見る重要な資料の一つである

まだ分からないこと

今回の記事では、15のāsanaすべてについて現代のポーズと一対一で照合していません。

それを行うには、各āsanaについて原文の身体配置を確認し、現代のポーズと比較する必要があります。

さらに、本当に歴史的な継承関係があるのかを調べるには、その間の文献や実践伝承も追う必要があります。

YogaTownでは今後、Pose Databaseが十分に揃った段階で、

「現代の100ポーズと古典文献のポーズは、どこまで対応するのか?」

という横断調査にも進む予定です。

主な参考資料

  • Light on Haṭha Project, Haṭhapradīpikā: New Critical Edition and Translation, University of Oxford / Philipps-Universität Marburg, 2024.
  • James Mallinson and Mark Singleton, Roots of Yoga.
  • Jason Birch, research on the proliferation of āsana in late-medieval yoga texts.
  • Jason Birch and Mark Singleton, research on the Haṭhābhyāsapaddhati.

※ Haṭhapradīpikāには多数の写本と複数の刊本があり、節番号や一部の読みが版によって異なる場合があります。本記事では現行の学術研究・critical editionを優先し、現代の同名ポーズとの直接的な継承関係は、十分な証拠が確認できない限り断定していません。また、現代の校訂版・翻訳の文章は転載せず、YogaTown編集部が資料を比較して内容を整理しています。

次に読みたい

  • アーサナとは何?「ヨガのポーズ」を意味するまで
  • 18世紀のヨガに記録された112のアーサナ
  • ダウンドッグは昔のヨガにもあったのか?
  • 「84のアーサナ」とは何なのか?
  • シャヴァーサナは昔からヨガの最後に行われていた?