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18世紀の112アーサナと現代のヨガポーズを比べてみる─同じ名前なら同じポーズ?

2026年10月5日

前回の記事では、18世紀に成立したと考えられているHaṭhābhyāsapaddhati(ハタービヤーサパッダティ)というヨガ文献に、112のāsana(アーサナ)が記録されていることを紹介しました。

では、その112のアーサナと、私たちが現在行っているヨガポーズを並べてみると、どのくらい同じものが見つかるのでしょうか。

YogaTownでは現在、100を超える現代のヨガポーズをデータベース化しています。

そこで古い文献のアーサナと現代のポーズを比べてみることにしました。

ところが、調べ始めてすぐに一つ問題が出てきます。

「同じポーズ」とは、いったい何が同じなのでしょうか。

名前が同じこと。

身体の形が同じこと。

動き方が同じこと。

それとも、そのポーズが使われる目的まで同じこと。

18世紀の資料と現代ヨガを比較してみると、この違いがかなり重要だということが分かってきます。

今回は「名前の一致」だけでは数えない

たとえば、古いヨガ文献にGaruḍāsana(ガルダーサナ)という名前が見つかり、現代のYogaTownにもGaruḍāsana(ガルダーサナ/鷲のポーズ)が登録されていたとします。

これだけを見ると、「同じポーズが昔から存在した」と数えたくなります。

しかし、ヨガポーズの歴史では、それほど単純には判断できません。

同じサンスクリット語名が、時代によって異なる身体姿勢を指す場合があるからです。

逆に、名前はまったく違うのに、身体の形が非常によく似ている場合もあります。

そこで今回の比較では、少なくとも次の4つを分けて考えます。

比較区分 意味
名前と形が近い 名称だけでなく、身体配置にもかなりの共通点が確認できる
名前は同じ・似ている 名称は共通するが、身体配置まで同じとは判断できない
名前は違うが形が似ている 異なる名称だが、身体配置や動作に明確な類似がある
対応不明 現代のポーズと一対一で結びつける根拠が不足している

つまり、この記事は「112のうち○個が現在も残っている」という単純な集計ではありません。

古いアーサナと現代のポーズを比較するとき、何を根拠に「同じ」と考えられるのかを見ていきます。

例1:名前は「象」、形はダウンドッグに似ている

最も分かりやすい例が、前回紹介したGajāsana(ガジャーサナ/象のポーズ)です。

Haṭhābhyāsapaddhati(ハタービヤーサパッダティ)では、手と足を床につけ、臀部を持ち上げ、臍の方向を見るような身体配置が記されています。

この一場面は、現代のAdho Mukha Śvānāsana(アド・ムカ・シュヴァーナーサナ/下向きの犬のポーズ)によく似ています。

ところが名称は「犬」ではなく「象」です。

さらにGajāsana(ガジャーサナ)は、その姿勢で静止するだけではなく、鼻を床へ近づけながら身体を動かし、それを繰り返す実践として記述されています。

したがって、

Gajāsana = ダウンドッグ

とすることはできません。

ここで確認できるのは、

18世紀のGajāsanaには、現代のダウンドッグによく似た身体配置が含まれている

というところまでです。

これは「名前は違うが形が似ている」例です。

例2:「犬」という名前なのに、ダウンドッグとは違う

反対の例もあります。

Haṭhābhyāsapaddhati(ハタービヤーサパッダティ)には、Śvottānāsana(シュヴォッターナーサナ)という姿勢が記されています。

śvan(シュヴァン)は犬を意味する語です。

そのため、名前だけを見ると現代の「犬のポーズ」と関係がありそうです。

しかし、文献に記された身体の動きは、現在のAdho Mukha Śvānāsana(アド・ムカ・シュヴァーナーサナ)とは大きく異なります。

つまり、18世紀の資料には、

  • 名前は「象」だが、現代のダウンドッグに似ている姿勢
  • 名前は「犬」だが、現代のダウンドッグとは似ていない姿勢

の両方があります。

この一例だけでも、サンスクリット語名の一致だけでポーズの歴史を追うことが危険だと分かります。

例3:「弓のポーズ」も今と同じとは限らない

現代YogaTownにはDhanurāsana(ダヌラーサナ/弓のポーズ)があります。

うつ伏せから両足首を持ち、胸と腿を持ち上げ、身体全体で弓のような形を作るポーズです。

ところがHaṭhābhyāsapaddhati(ハタービヤーサパッダティ)の51番には、現代の弓のポーズとはかなり違う姿勢が記されています。

そこでは両足のつま先を手で持ち、片方ずつ足の親指を耳へ近づけます。

興味深いのは、この51番にはHaṭhābhyāsapaddhati本文ではポーズ名が付いていないことです。

その後、19世紀のŚrītattvanidhi(シュリータットヴァニディ)では、ほぼ同じ記述の姿勢にDhanurāsana(ダヌラーサナ/弓のポーズ)という名前が付けられました。

しかし現代では、この身体配置は一般的なDhanurāsanaというより、Ākarṇa Dhanurāsana(アーカルナ・ダヌラーサナ/射手のポーズ)に近いものとして理解できます。

つまり「弓」という同じ名前でも、どの時代の身体配置を指しているかは一定ではありません。

これは、名前の歴史と身体姿勢の歴史を別々に追う必要があることを示す好例です。

例4:Uṣṭrāsana(ウシュトラーサナ/ラクダのポーズ)

Haṭhābhyāsapaddhati(ハタービヤーサパッダティ)と19世紀のŚrītattvanidhi(シュリータットヴァニディ)を比較した研究資料には、Uṣṭrāsana(ウシュトラーサナ)という名称も確認できます。

現代YogaTownにもUṣṭrāsana(ウシュトラーサナ/ラクダのポーズ)があります。

これは名称上かなり目を引く一致です。

しかし、ここでも名前が同じだから現代のラクダのポーズと完全に同一だった、と即断することはしません。

古い記述の身体配置、後代の図像、現代の実践をそれぞれ照合する必要があります。

今回の段階では、「同名のアーサナが存在する」という事実と、「現在と同じポーズである」という判断を分けて扱います。

例5:Garuḍāsana(ガルダーサナ/鷲のポーズ)

同じことはGaruḍāsana(ガルダーサナ/鷲のポーズ)にも当てはまります。

YogaTownの現代版では、片脚で立ち、脚と腕を交差させてバランスをとるポーズとして収録しています。

一方、Haṭhābhyāsapaddhati(ハタービヤーサパッダティ)のアーサナとŚrītattvanidhi(シュリータットヴァニディ)を比較した研究資料にも、Garuḍāsanaという名称が確認できます。

これも「名前が一致する例」には数えられます。

しかし、そこから直ちに、

18世紀から現在の鷲のポーズが変わらず続いている

と結論づけることはできません。

身体配置まで含めた比較が必要です。

例6:Śavāsana(シャヴァーサナ/屍のポーズ)も記録されている

Haṭhābhyāsapaddhati(ハタービヤーサパッダティ)とŚrītattvanidhi(シュリータットヴァニディ)の対応関係を示した資料には、Śavāsana(シャヴァーサナ/屍のポーズ)も確認できます。

Śavāsanaという名称自体はHaṭhābhyāsapaddhatiより古いハタヨガ文献にも現れるため、112アーサナすべてがこの文献で新しく作られたわけではありません。

実際、研究者BirchとSingletonは、112の大部分は他のヨガ文献に見られない一方で、Siddhāsana(シッダーサナ)やKukkuṭāsana(クックターサナ)、Matsyendrāsana(マツイェーンドラーサナ)など、以前から知られていた少数のアーサナも含まれると指摘しています。

つまりHaṭhābhyāsapaddhatiは、「112の新しいポーズを突然作った文献」ではありません。

既存のアーサナと、他の文献では確認しにくい多数の身体実践が、一つの体系にまとめられています。

同じ名前を探すだけでは、かなり取りこぼす

ここまでの比較で重要なのは、YogaTownのデータベースとHaṭhābhyāsapaddhatiを単純な文字列検索で照合しても、あまり意味のある結果にはならないことです。

たとえば、

古い資料 現代の候補 問題
Gajāsana(ガジャーサナ) ダウンドッグ 形は似るが名前が違う
Śvottānāsana(シュヴォッターナーサナ) 犬のポーズ 名前は犬だが形が違う
Dhanurāsana(ダヌラーサナ) 弓のポーズ 時代によって名前が指す形が変わる
Uṣṭrāsana(ウシュトラーサナ) ラクダのポーズ 名前の一致だけでは同一性を確定できない
Garuḍāsana(ガルダーサナ) 鷲のポーズ 名称だけでなく身体配置の確認が必要

というように、少なくとも三つの異なる歴史を考える必要があります。

  • ポーズ名の歴史
  • 身体の形の歴史
  • 動きや実践方法の歴史

そして、この三つは必ずしも同じ速度で変化してきたわけではなさそうです。

現代では「静止画」になっていることにも注意したい

もう一つ、YogaTownのPose Databaseと古い文献を比較するときの大きな違いがあります。

現代のポーズデータベースでは、基本的に一つのアーサナを一つの完成姿勢として登録します。

一方、Haṭhābhyāsapaddhati(ハタービヤーサパッダティ)には、動作を繰り返したり、前の姿勢から次の姿勢へ移ったりする記述があります。

研究者BirchとSingletonは、この文献ではアーサナ間の移行そのものが記述されており、複数の姿勢がシークエンスとして実践された可能性を指摘しています。

たとえば、ある瞬間だけを写真にすれば現代のポーズにそっくりでも、

古い資料では「そこへ入り、そこからさらに動く」ことまで含めて一つの実践だった

可能性があります。

これは、古典アーサナと現代のポーズ写真を画像だけで照合するときにも注意したい点です。

「いくつ残っているか?」より面白い問いが出てきた

最初は、

112のうち、YogaTownにもあるポーズはいくつだろう?

という疑問から始めました。

しかし実際に比較してみると、この問い自体を少し変えたほうがよさそうです。

なぜなら、ポーズには少なくとも、

  • 古い名前が残り、姿勢が変化したもの
  • 姿勢は似ているが、名前が変化したもの
  • 古い姿勢の一部分だけが現代のポーズに似ているもの
  • 現在では一般的に行われなくなったもの
  • 現在も比較的追いやすい形で残っている可能性があるもの

が混在しているからです。

そこでYogaTownでは今後、古典と現代のポーズを単純な「一致/不一致」ではなく、複数段階で記録していくほうがよいと考えています。

YogaTownで今後作れそうな「古典ポーズ対応データ」

今回の調査をPose Databaseへ還元するなら、各現代ポーズに対して次のような情報を持たせることができそうです。

項目 記録する内容
Historical Source 類似する姿勢が確認できた文献
Historical Name その文献で使われている名称
Name Similarity 現代名との一致・類似
Form Similarity 身体配置の類似度
Movement Similarity 動作・入り方・反復の類似度
Continuity Evidence 直接的な伝承関係を示す資料の有無
Confidence High / Medium / Low

こうすれば、

「似ている」ことと「歴史的につながっている」ことを分けて記録できます。

YogaTownのポーズDBを増やすだけでなく、こうした歴史情報を少しずつ重ねていけば、現代ポーズと古典資料を横断できるデータベースへ発展させることもできそうです。

今回分かったこと

確認できたこと

  • Haṭhābhyāsapaddhati(ハタービヤーサパッダティ)には112のアーサナが記録されています。
  • その大部分は、当時の他のヨガ文献では確認されにくいアーサナです。
  • 一方で、以前から知られていたアーサナも一部含まれています。
  • 現代のYogaTown収録ポーズと同じ、または似たサンスクリット語名を持つ例があります。
  • 名前が異なっても、現代のポーズによく似た身体配置を持つ例があります。
  • 同じ名称でも、時代によって身体配置が異なる場合があります。
  • 静止した身体の形だけでなく、動作やポーズ間の移行も比較する必要があります。

まだ分からないこと

  • Haṭhābhyāsapaddhatiの個々のアーサナから、どの現代ポーズへ直接伝承されたのか。
  • 同名のアーサナが、どの時点で現在の身体配置になったのか。
  • 名前が違う類似姿勢の間に、歴史的な継承関係があるのか。
  • 112アーサナすべてについて、現代YogaTownのポーズとの対応を確定できるわけではありません。

ポーズの歴史は「名前」と「形」を分けると見えてくる

18世紀の112アーサナと現代のヨガポーズを比べてみると、最も印象的だったのは「何ポーズ残っているか」ではありませんでした。

名前と身体の形が、必ずしも一緒に歴史を移動していないことです。

「犬」という名前を追うと、現在とは違う身体配置が現れます。

現在のダウンドッグの身体配置を追うと、「象」という名前が現れます。

「弓」という名前を追っても、現在一般的な弓のポーズとは違う姿勢が現れます。

こうして一つずつ見ていくと、

このポーズは何百年前から存在する

という単純な説明だけでは捉えられないヨガの歴史が見えてきます。

YogaTownでは今後も、ポーズ名だけでなく、身体配置、動き、古典資料、近代の資料を照合しながら、現代のポーズがどこまで遡れるのかを調べていきます。

主な参考資料

  • James Mallinson, Jason Birch & Mark Singleton, A Manual on the Practice of Haṭhayoga: An Edition and Translation of the Pune Manuscript of the Haṭhābhyāsapaddhati, 2025.
  • Jason Birch & Mark Singleton, “The Yoga of the Haṭhābhyāsapaddhati: Haṭhayoga on the Cusp of Modernity,” Journal of Yoga Studies, Vol. 2, 2019.
  • Jason Birch & Jacqueline Hargreaves, “Premodern Yogāsanas and Modern Postural Yoga Practice: Distinct Regional Collections of Āsanas on the Eve of Colonialism,” Journal of Yoga Studies, Vol. 4, 2023.
  • Jacqueline Hargreaves & Jason Birch, “Dhanurāsana: Two Versions of Bow Pose.”
  • Wellcome Collection, nineteenth-century image and catalogue record relating to the Haṭhābhyāsapaddhati no. 51.