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現代のヨガポーズはいつ生まれた?「ポーズ中心のヨガ」ができるまで
2026年9月17日
ヨガと聞くと、何を思い浮かべるでしょうか。
ダウンドッグ、三角のポーズ、戦士のポーズ、木のポーズ。
現在のヨガスタジオでは、いくつものポーズを順番に練習するスタイルが広く見られます。
では、こうした「たくさんのポーズを行うヨガ」は、いつ始まったのでしょうか。
古代インドからほとんど同じ形で続いてきたのでしょうか。それとも、近代になって新しく作られたのでしょうか。
ヨガ史の研究をたどってみると、どちらか一方だけでは説明できないことが分かります。
そして、このテーマを調べるうえでは、最初の問いそのものを少し変えたほうがよさそうです。
「ヨガポーズはいつ生まれたのか?」ではなく、「いつ、どのような過程でāsana(アーサナ)がヨガの代表的な実践になったのか?」
今回は、この問いから現代の「ポーズ中心のヨガ」ができるまでをたどります。
現代のヨガポーズに「誕生日」はある?
最初に結論を言うと、「現代のヨガポーズは○年に誕生した」と言えるような一つの日付は確認できません。
理由の一つは、現在行われている個々のポーズの歴史がそれぞれ異なるからです。
もう一つは、ある身体姿勢が存在した時期と、多数のポーズを練習することがヨガの中心になった時期が同じではないからです。
modern postural yoga(ポーズを主要な実践とする近現代ヨガ)を研究するMark Singletonは、19世紀後半から20世紀前半にかけて、āsanaが近現代ヨガの中で大きな位置を占めるようになる過程を詳しく検討しています。
そこから見えてくるのは、ある日突然「現代ヨガ」が誕生したという歴史ではありません。
長い時間の中で、ヨガ全体におけるāsanaの位置づけそのものが変化したという歴史です。
複雑なヨガポーズは近代以前にもあった
まず確認しておきたいのは、「昔のヨガには座って瞑想する姿勢しかなかった」という説明です。
現在確認されている資料を見る限り、これは単純化しすぎています。
18世紀のHaṭhayoga文献 Haṭhābhyāsapaddhati には、112のāsanaが記録されています。
しかも、そこに見られるのは静かな座位だけではありません。
反復して身体を動かすもの、連続的な実践として理解できるもの、ロープを利用するものなど、多様な身体技法が含まれています。
さらに近年の研究では、18〜19世紀のインド各地に、それぞれ特徴の異なるāsanaのコレクションが存在したことも検討されています。
つまり、非座位で複雑なヨガの身体姿勢そのものが、20世紀になって初めて現れたわけではありません。
それでも、前近代のヨガと現代のヨガは同じではない
では、現在のヨガスタジオで行われているポーズ練習は、18世紀以前のヨガがそのまま伝わったものなのでしょうか。
それも、現在の資料からは言えません。
前近代のHaṭhayogaにはāsanaだけでなく、呼吸法、mudrā、身体の浄化法、瞑想など、さまざまな実践が含まれていました。
多数のポーズを組み合わせ、それ自体を一つのクラスとして一般の人が練習する現在のスタイルとは、ヨガ全体の構成や社会的な位置づけが異なります。
ここで重要になるのが、
「いつポーズが存在したのか」と、「いつポーズがヨガの主役になったのか」は別の歴史問題である
という区別です。
19世紀末、国際的に紹介されたヨガはまだポーズ中心ではなかった
この違いがよく見えるのが19世紀末です。
1896年、Swami Vivekanandaは英語で Raja Yoga を刊行しました。
Vivekanandaはヨガを欧米に紹介した重要人物の一人ですが、そこで示されるヨガは、現在のスタジオで見るような多数のポーズ練習を中心としたものではありません。
āsanaについても、長時間安定して座り、身体を保つための姿勢としての性格が強く見られます。
またVivekanandaは、身体的な実践そのものを自らのヨガの中心には置いていませんでした。
現在は「ヨガ=ポーズ」という印象が非常に強いため意外に感じるかもしれません。
しかし、ヨガが近代に国際的に紹介されていく初期段階でも、āsanaはまだ必ずしも主役ではなかったのです。
20世紀前半、ヨガとさまざまな身体文化が交わる
状況が大きく変化するのが、19世紀末から20世紀前半です。
この時代のインドには、さまざまな身体文化が存在していました。
インドに以前から存在した身体鍛錬に加えて、ヨーロッパ由来の体操、ボディビルディング、学校体育、YMCAなどを通じて広がった国際的なphysical cultureもありました。
modern yogaの研究では、こうした身体文化とヨガが相互に影響したことが指摘されています。
ただし、ここから
「現代ヨガのポーズは西洋体操から作られた」
と結論づけるのは単純すぎます。
すでに見たように、それ以前のインドにも多数のāsanaと身体技法が存在していたからです。
そのため現在の研究を踏まえるなら、
インドに存在していたさまざまなヨガ・身体実践が、近代の国内外の身体文化と出会い、新しい文脈の中で再編されていった
と整理するほうが適切でしょう。
ヨガが「身体」や「科学」の言葉でも説明されるようになる
20世紀前半には、ヨガを近代科学の方法で研究しようとする動きも現れます。
その重要人物の一人がSwami Kuvalayanandaです。
1920年代、Kuvalayanandaらはヨガの実践を生理学的な観点から研究し、その成果を発表していきました。
その後の初期研究では、āsanaや呼吸法などと身体の反応との関係が実験的に調べられています。
ただし、これらはヨガ研究史上重要な試みではあるものの、当時の研究結果をそのまま現在の医学的エビデンスとして扱うことはできません。
ここで注目したいのは別の点です。
ヨガの身体技法が、宗教的・修行的な言葉だけでなく、身体、健康、生理学といった近代的な言葉でも説明されるようになったことです。
ヨガがより広い層へ受け入れられていくうえで、こうした変化も重要だったと考えられています。
1930〜40年代、Mysoreで展開したヨガ
現代のポーズヨガを考えるうえで、もう一つ重要な場所があります。
南インドのMysoreです。
1930〜40年代、T. KrishnamacharyaはMysoreでヨガを指導しました。
その実践には多数のāsanaが含まれ、身体を動かしながら姿勢をつなぐ方法など、後のmodern postural yogaを考えるうえで重要な特徴が見られます。
Mark Singletonは、この時期のKrishnamacharyaのヨガを、伝統的Haṭhayogaと、当時のインドおよび国際的な身体文化が交わる中で形成された重要な実践として分析しています。
ただし、
「Krishnamacharyaが現代ヨガのポーズを発明した」
と説明することはできません。
近年研究が進んでいる Haṭhābhyāsapaddhati をはじめ、Mysore周辺にはそれ以前のāsana資料も伝わっていました。
こうした前近代の資料とKrishnamacharyaの実践との具体的な影響関係については研究が続いており、YogaTownでは現段階で直接的な伝承を断定しません。
写真や印刷も「ポーズ中心のヨガ」に関係した?
modern postural yogaの歴史では、身体文化だけでなく、メディアの変化も研究されています。
その一つが写真と印刷です。
身体の形として表現できるāsanaは、写真との相性が非常に高い実践です。
呼吸法や瞑想のような内面的な実践は、一枚の写真だけでは内容を伝えにくいでしょう。
一方、三角のポーズや逆転姿勢なら、身体の形そのものを写真に残すことができます。
研究者Mark Singletonは、写真や印刷による身体イメージの流通も、modern postural yogaの形成を考える一つの要素として取り上げています。
ここから「写真がポーズヨガを生んだ」とまでは言えません。
ただ、身体の形を見せ、比較し、繰り返し複製できるメディアが広がったことは、āsanaを伝えやすくする条件の一つだったと考えることはできます。
「古代の伝統」か「近代の発明」か、という二択ではない
現代ヨガの歴史については、ときどき二つの極端な説明があります。
- 現代のヨガポーズは、古代インドからほとんど変わらず伝わってきた
- 現代のヨガポーズは、西洋体操の影響によって20世紀に作られた
しかし現在確認できる研究を見る限り、どちらか一方だけでは説明できません。
植民地期以前のインドにも、多数の複雑なāsanaが存在しました。
その一方で、19〜20世紀には身体文化、健康思想、科学、教育、出版などとの大きな相互作用が起こりました。
そのためYogaTownでは、現代のポーズヨガを、
以前から存在したさまざまなヨガの身体実践が、近代という新しい環境の中で選び直され、組み替えられ、広く共有されるようになったもの
として捉えるのが、現在の研究状況に比較的よく合うと考えます。
では、現代のヨガポーズはいつ生まれた?
最初の問いに戻りましょう。
「現代のヨガポーズはいつ生まれたのでしょうか?」
今回確認した資料から、一つの年号を答えることはできませんでした。
多様なāsanaそのものは近代以前から存在していたからです。
一方で、現在私たちがよく知る、
- 多数のポーズを練習する
- 身体や健康との関係でヨガを説明する
- 写真や本を使ってポーズを学ぶ
- 一般の人がクラス形式で練習する
といったヨガのあり方は、とくに19世紀末から20世紀にかけて大きく形成されていきました。
だから、今回の調査から見えてきたより正確な問いは、
「ヨガポーズはいつ生まれた?」ではなく、「いつ、どのような過程でāsanaがヨガの主役になった?」
というものです。
今回分かったこと
- 多数で複雑なāsanaは近代以前にも存在していた
- 「ポーズが存在すること」と「ポーズがヨガの中心になること」は別の歴史問題である
- 19世紀末に国際的に紹介されたヨガは、現在の意味で必ずしもポーズ中心ではなかった
- 19〜20世紀には、ヨガとさまざまな身体文化、健康観、科学などが相互に影響した
- KrishnamacharyaのMysore期はmodern postural yogaを考える重要な場の一つだった
- 現代のポーズヨガは「古代から不変」でも「20世紀にゼロから発明」でもない
まだ分からないこと
現代ヨガの歴史研究は現在も更新されています。
とくに難しいのは、前近代の資料に現れる個々のāsanaと、現在行われている同名・類似ポーズとの関係です。
身体の形が似ているだけでは、「そのポーズがそのまま伝承された」とは言えません。
YogaTownでは今後、歴史資料と現代ポーズを比較するとき、
- 名前が一致するか
- 身体の形が一致するか
- 実践する目的が一致するか
- 伝承を示す資料が確認できるか
を分けて調べていきます。
「昔にもこのポーズがあった」と一言で終わらせず、その間に何が分かっていて、何がまだ分からないのかまで残していく予定です。
主な参考資料
- Mark Singleton, Yoga Body: The Origins of Modern Posture Practice, Oxford University Press, 2010.
- Suzanne Newcombe, “The Development of Modern Yoga: A Survey of the Field,” Religion Compass, 2009.
- Jason Birch and Jacqueline Hargreaves, research on premodern yogāsanas and modern postural yoga, Journal of Yoga Studies, 2023.
- James Mallinson, Jason Birch and Mark Singleton, A Manual on the Practice of Haṭhayoga: An Edition and Translation of the Pune Manuscript of the Haṭhābhyāsapaddhati, EFEO / IFP, 2025.
- Swami Vivekananda, Raja Yoga, 1896.
- Paul Dallaghan and Subodh Tiwari, research reviewing the early scientific study of yoga and the development around Kaivalyadhama, 2025.
※ ヨガ文献の成立年代や実践間の影響関係には、研究上の不確実性があります。本記事では「発明」「最初」「直接受け継がれた」などの表現を、十分な根拠が確認できない場合には使用していません。また、現代の研究書や翻訳を長文転載せず、複数の資料を確認したうえでYogaTown編集部が内容を整理しています。
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